国際人

南雲康宏 氏
(従心会倶楽部 シニアアドバイザー)

 日本人は、日本はもっと国際化しなければならない、日本人は国際人にならなければならない、という強迫観念に捉われているように思えます。それには英会話だ、という訳です。
社内会議を英語で行う企業も現れました。TOEICの点数も一定点数以上ないと昇進できない企業もあります。50年以上前、私の勤務する会社で英語を人事考課に反映する案がありました。しかし、海外営業部以外の社内の大反対でオクラになったことがありました。

 英語が話せることが国際人の条件か?
アメリカでは移民一世を除けば皆英語を不自由なく話します。世界中どこでも英語が通じ、ドルがどこでも使えると思っている人は多いです。私は “東京から香港まで車で何時間かかるか?“ と聞かれたことがあります。それに比べれば日本人の方が(一般人レベルですが)よっぽど国際人だと思います。でも、英語が話せなくとも国際化は必要です。

 英語を流暢に話す日本人で、外国に行って日本の歴史、文化、伝統について聞かれた場合、殆ど何も答えられない人が多いと聞いています。いくら英語が流暢でも自国のことをきちんと説明できなければ、逆にその流暢さが軽蔑に変わりかねません。
 私の個人的見解ですが、国際人養成には学校教育で日本史の必修化、国語教育の質的向上を図るべきだと思います。外国語は母国語の水準以上には上達しないというのが専門家の見解です。残念ながら今や日本語は乱れを通り越して壊れていると私は思っています。
 従心会の会員でもある勝又美智雄氏が創立メンバ-である国際教養大学では学生の留学先を選ぶのに日本人のいない大学を選ぶと聞いています。マンガやアニメのおかげで日本・日本人は人気があるので質問攻めにあうのですが、聞かれた学生はいかに自国のことに無知かを知って愕然となるようです。そこで日本について猛勉強するらしいのですが、留学を終えるころには全く違った自国に対する認識を持つようになるようです。
 日本人女性と結婚し長年東京に住んでいるアメリカ人に、国際人って英語で何というか聞いてみました。しばらく考えていましたが、日本語の「国際人」に相当する英語はないとの事でした。因みに、国際化・国際人を英語に直訳すると、<国際化>=Internationalization 意味は(国際or共同管理)Internationalization of Suez Canal という風に使います。
<国際人>=Internationalist 意味は A specialist of International Law=国際法の専門家だそうです。

 以下に外国語が話せなくても国際人たり得ることを示すエピソ-ドをご紹介します。
元治元年(1864年)長州は英仏蘭米の四国連合艦隊に敗れました。(馬関戦争)
講和会議でイギリスは彦島の租借を条件の一つに持ち出しました。藩から全権を任された高杉晋作は延々と古事記を朗唱して相手を煙に巻き要求を断念させたというエピソ-ドが残っています。高杉晋作は<租借>の意味を完全に理解していたと思われ、もしこの交渉で彦島の租借を受け入れていたら(事実藩の上層部は租借の要求を受け入れても構わない意向のようでした)彦島は第二の香港、下関は九龍半島になっていたことでしょう。租借期限の切れる99年後は、なんと1963年東京オリンピックの前年になります。明治維新以降の日本の大躍進もなかったことでしょう。
 この話には異説があり、通訳を務めた伊藤博文のホラ話だという人もおり、イギリス公使の通訳官ア-ネスト・サト-の日記や回顧録にも彦島は出てきていないとのことです。