日本人の法意識

 

南雲 康宏 氏
株式会社従心会倶楽部
シニアアドバイザー

 

 中国は人治国家であり韓国は情治国家と言われるが日本は法治国家である、というのが大多数の日本人の認識ではないでしょうか。私はその認識には懐疑的であり、日本は法治国家ではあるが実態は選択制法治国家ではないかと思っています。選択制とは何か?それは自分の気に入らない法律は無視するか守らないということです。

 同性婚:渋谷区は「同性パ-トナ-シップ条例」を2015年4月に制定し同性婚に風穴をあけた。これは憲法24条に、婚姻は両性の合意のみにて成立し、とあり当条例は憲法違反の疑いが濃厚です。LGBTに寛容なのは世界的潮流であり、日本も例外ではない。にもかかわらず条例制定以来5年、憲法改正の声は全く聞こえてきません。

 私学助成金:憲法89条(抜粋)公金は公の支配に属さない慈善、教育、博愛の事業に支出してはならない、とある。文科官僚の天下りの強力なツ-ルである私学助成金も憲法違反の疑いがあります。実態に合わせて憲法改正しようという声を上げる人は誰もいない。さりとて憲法違反の疑いがあるから私学助成金は廃止すべきという声も聞こえてこない。
 憲法違反といえば憲法9条。最近のアンケ-ト調査では自衛隊に好意を持つ人はほゞ90%に達する。しかし憲法9条改正に賛成の人はアンケート調査結果の90%には遠く及ばない。

 閣議決定を無視し、国会決議を無かったことにする日本人。

 真珠湾攻撃で始まった日米戦争は東条内閣によって大東亜戦争と称すると閣議決定されました。戦後文部省教科書検定で先の大戦を大東亜戦争と記述した教科書は検定官によって太平洋戦争に書き改めさせられました。

 サンフランシスコ講和条約が発効したのは昭和27年(1952)4月28日。

 その後同年6月を皮切りに「戦争犯罪人の名誉回復」に関する法律が国会で4本可決されました。こうして国内法では戦争犯罪人はいない事になりました。しかし、自分の気に入らない法律は守る気のない選択制法治国家の住民は、A級戦犯が合祀されているという理由で靖国神社参拝を執拗に批判しています。なぜ彼(女)等は、「戦争犯罪人の名誉回復」に関する国会決議取消の運動を起こさないのでしょう。

 こういった現象の背景には、一旦決めたことは廃止したり改正したりすることを嫌う日本人の民族性があると思っています。

 大宝律令→鎌倉幕府の御成敗式目→江戸幕府の公事方御定書→明治憲法→日本国憲法国の最高法規の変遷を並べてみました。どの法令も前の法令を廃止したり改正して出来たものではありません。明治初期に発令された “廃刀令” “断髪令” の法的根拠は “太政官布告” です。鎌倉時代から600年以上眠っていた “大宝律令” が突如目を覚ましたのです。この融通無碍な法意識、日本人の面目躍如といえるのではないでしょうか。

 平安時代治安が乱れ、治安維持のために “検非違使” が創設されました。律令にない官職なので “令外官” と呼ばれました。戦後創設された自衛隊も現代の “令外官” と言えるでしょう。

 憲法9条改正で左右相争う現代の日本人。先人の知恵に学ぶべきではないでしょうか。 

<ドイツ人と日本人の法意識の違い>

 第二次石油危機の時にドイツに駐在していた友人の話をご披露します。
ガソリンの需給が逼迫していたので政府は “〇月〇日よりガソリンの販売を制限する” 通達を出しました。日本人は 「供給制限が始まる前に旅行しておこう」と言って実行しました。ドイツ人は 「〇月〇日を待たずとも今既にガソリンが足りないのだ」と言ってガソリンの消費を自粛しました。一つの法律に対する日独両国民の対応の違いが鮮やかに浮き彫りになったエピソ-ドでした。