日本語のチカラ

従心会倶楽部シニアアドバイザー 南雲 康宏氏からの寄稿を掲載させていただきます。

 

 

南雲 康宏 氏
従心会倶楽部 シニアアドバイザー

 ハーバード大学の政治学者ハンチントン教授はその著書「文明の衝突」で世界は九大文明に分けられるが、日本は一国一民族で独立した文明であると述べている。学者により分類の仕方は異なるが、どの学者も日本は一国一文明であると言っている。この異質な文明の基には日本語の働きがあると思っています。

♪あれマツムシが鳴いている・・・と言う童謡があります。日本人は虫の音を「声」として認識しているのですが、西洋人には虫の鳴き声は単なる雑音にしか聞こえないそうです。このような特徴は日本人とポリネシア人だけに見られ、中国人や韓国人も西洋型を示すそうです。これは「日本人の脳」ではなく「日本語脳」のなせる業なのです。つまり、外国人でも生まれた時から日本語を母語として育つと日本型になるのだそうです。日本語は世界の主要言語の中ではかなり異質の言葉のようです。日本人の多くが英語が苦手なのも日本語脳が大きく影響していると個人的には思っています。

 フランス語に「タタミゼ」という言葉があります。意味は「日本ぽくなる」というほどの意味です。海外の日本語学習者の間では以前から、「日本語を学ぶと、性格が温和になる」「人との接し方が柔らかくなる」と言うことが指摘されていました。言語学者の鈴木孝夫氏は、「日本語は人を喧嘩とか対立が出来にくい平和的な人間にしてしまいがちだ」と言っています。鈴木氏が挙げた多くの実例の一例を紹介します。ある米国人の女性は、日本語を学び、日本に暮らした結果、万事控えめになり、自己主張があまりできなくなったとのことです。米国人の人類学者H.バッシンはその著書の中で、「日本語を話す度に、自分はこんなにも礼儀正しい人間になれるものかと、自分でも驚いてしまう。こういうことは、英語を話すときには一度も感じたことはない。」と言っています。

 私の個人的体験談です。海外勤務時代、慶大に留学経験のある女性社員と雑談をしていた時、突然彼女が言葉を英語から日本語に切り替えたのです。途端に彼女は淑やかな「大和撫子」に変身したのでした。

 日本の「マンガ」や「アニメ」は今や世界の若者に大人気。原作を日本語で読もうとして日本語を学ぼうとする外国人の若者が増えているようですね。日本語の学習を通じて、争いを好まず穏やかな日本人の性格を身に着けて欲しい。そして、これらの若者が社会に影響力を持つ年齢に達するころには、世界は今より争いの少ない穏やかな日々が訪れるのではないかと日本語のチカラを信じています。