風狂盲人日記 ⑫ DSA:分裂するアメリカ

従心会倶楽部の顧問で国際教養大学名誉教授の勝又美智雄先生は、昨年緑内障の悪化で失明され、ご不自由な生活を余儀なくされておられます。
このような中、近況を「風狂盲人日記」としてご寄稿いただけることになりましたのでご紹介させていただきます。
今回のテーマは「DSA:分裂するアメリカ」です。

株式会社従心会倶楽部 顧問
国際教養大学 名誉教授

勝又 美智雄 先生

2022年11月末日

 失明して以来、世界の主な動きについてはパソコンで全米公共ラジオ(National Public Radio=NPR)を家内にセットしてもらい、週に2回、数時間ずつ聞いている。24時間放送の報道番組で、毎時5分間の世界の主要ニュースの後、主なものについて現地からの記者の報告や、学者・専門家のインタビューなどで解説を加えるもので、この2年間これが私の主な情報源になっている。

 アメリカの主要ニュースとしては、今年初めから①銃乱射事件、②人工中絶問題、③黒人差別、ゲイ・レズビアンなどマイノリティ差別問題が主で、この11月の中間選挙でも、この3点が進行するインフレ対策と並んで重要政策課題として掲げられ論じられてきた。

 銃乱射事件は、スーパーや学校、あるいは住宅街、更にナイトクラブなどで、短銃だけでなく機関銃を持ち込んで乱射し、多数の死傷者を無差別に撃ち殺す事例が頻発してきているためで、その種の事件が起きるたびに銃規制問題がクローズアップされるが、その対策として「18歳未満には機関銃は売らない」とか「精神病歴、犯罪・逮捕歴のある者には銃砲器類は売らない」という程度のもので、決して銃そのものを規制しようという動きには一度もならない。それは、合衆国憲法で「政府の圧政に抵抗するため、市民が武装する権利を持つことが民主主義を守る基本原理である」との条文によるからであり、この「銃に守られる民主主義」論は、アメリカの250年の歴史の中で一度たりとも揺らぐことはなく、今日まで続いている。それには民主、共和両党とも全く一致している。この1、2年銃乱射事件が起きる度に銃を買い求める市民が急増し、銃器メーカーの売り上げは対前年比で2~3倍増で大喜びだという。

 次いで人工中絶問題は各州で常に政治問題化しているが、宗教的観点から中絶そのものを悪と見なす考えが浸透しているため、優生保護法的な中絶もなかなか認められず、認めるのはせいぜい「15、16歳未満でレイプによる被害者であることが明白であること」などの厳しい条件が付けられている程度であり、これまた政党による違いも余り出ていない。興味深いのは、保守的な州ほど人工中絶に批判的で、基本的に中絶を認めない州が多く、そのため認める州にわざわざ長時間車を飛ばして治療を受けに行くという事例が無数にある。

 更に人種差別、性差別問題も、原則的には皆差別反対を唱えているが、実際に田舎、大都市を問わず各地で白人が黒人を襲って死傷させる事件や、性差別を唱えるグループを襲撃する事件が後を絶たず、この解決の見通しも殆ど立っていない。

 今月の中間選挙でも、こうしたことが各州の上院議員選挙、州内の選挙でも問題になったが、その際、従来共和党支持の強い「レッド・ステート(赤い州)」と民主党が優勢な「ブルー・ステート(青い州)」の色分けが、今世紀に入って固定的なものでなく、かなり流動化していることが窺え、選挙ごとに「青から赤へ」「赤から青へ」の転換が見られる州が増えてきて、その色合いが複雑になってきている。従来は業種の利害を代表する団体、労働組合、マイノリティが民主党を支持し、保守的な基盤の強い所ほど共和党支持者が多いと言われてきた。しかし今回の中間選挙では、18歳から20代の若者の投票率がかつてなく上がり、それが浮動票としてバラバラになってきた。長く民主党支持だった国民層や移民層が保守化し共和党支持に傾いてくる一方、共和党支持者の間では、トランプ前大統領を熱烈に支持するグループと反トランプ派とが分裂して対立する様相を濃くしている。

 そうした点で、アメリカはこれまでUSAの字句通りUNITE(統合する、団結する)を合言葉に多人種、多国籍の者が多様性を生かしながら纏まりを見せることで強さを発揮してきたのだが、21世紀に入ってからは、そのUNITEが崩れてむしろDIVIDEの様相が強くなってきている。つまりDSAという国家形態に変貌しつつあることが、この1、2年極めて濃厚になってきている。それは、アメリカが活力を持って世界をリードする国というよりも、トランプに代表される「アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)」で「自国さえよければ、他国のことは知らん」という独善的な政治風土がはびこってきていることを物語っていて、決してアメリカの将来を明るく照らしているものではない。

(つづく)