勝又 美智雄先生の寄稿:「2022 年(令和 4 年)の回顧」

勝又美智雄先生は、毎年年末にその年の回顧を親しくされておられる方々にご送付されておられますが、目のご不自由な中、今年も「2022年(令和4年)の回顧」をお送りいただきました。ご本人の同意が得られましたのでご紹介させていただきます。

株式会社従心会倶楽部 顧問
国際教養大学 名誉教授

勝又 美智雄 先生

2022 年暮れ

親愛なる皆さま

 一年間のご無沙汰ですが、皆さまご機嫌いかがでしょうか。私は今年初めから両目とも視界ゼロ、視力ゼロの全盲となり、同行援護なしでは病院通いも散歩などもできない状態になりました。しかし目以外は体調はまずまず上々で、朝昼晩の食事も美味しくいただき、殆ど毎日朝 9 時から夜 11 時ぐらいまで CD を聴いています。
昨年末の回顧文では、失明して、もはや読書もできなければ文章を書くこともできない、従ってこうした回顧文も書けなくなりそうだと記しましたが、この1年間様々な体験があり、「目が見えなくても書ける」ことを発見し、それによって精神的にも安定して、今年もこの私的回顧文を書くことに致しました。

 まず失明後の情報収集として、昨年春から始めた点字図書館の文芸書の朗読 CDを借り出して聴くということをずっと続けています。昨年は『平家物語』に始まって、『太平記』、『雨月物語』など江戸文学をサッと聞きました。続けて今年は明治以降、森鴎外、夏目漱石、幸田露伴、芥川龍之介、永井荷風、柳田國男などの主要作品をほぼ全部聴き、特に戦後のものとして井上靖、松本清張を数十冊聴いています。
目で読めば文庫本などは 1 時間に 70~80 ページのペースで読んでいましたが、朗読 CD ではそのスピードが半分なので倍の時間がかかります。耳で聴くだけだと却って集中して意味を取りながらストーリーを追うことで、案外良く頭に入ってくる気がします。

 振り返ってみれば、毎月ほぼ 20 冊以上聴いているので、1年間に 250 冊は読んでいると思います。その中で井上靖や松本清張の作品などでは、その緻密な構成と登場人物の心理への踏み込み方に実に鋭く深いものがあり感心する一方、夏目漱石の 40代の新聞小説十数本は、どれも内容が浅薄でしかも深みがなく、駄作ばかりではないかと驚いたのも新しい発見でした。
また、区立図書館から借りてくる市販の CD は、能の謡曲全集から始まって、講談、浪曲(広沢虎造の『国定忠治』『清水次郎長伝』など)、清元・常磐津・長唄、詩吟に童謡・わらべ歌など、ザっと 300 枚ぐらいは聴いたと思います。なかでも特に多かったのが落語で、志ん生、志ん朝、円生、米朝、枝雀、談志、志の輔などの全集物だけで約200枚にのぼり、公共図書館の在庫の豊富さに感謝しています。

 新年は、朗読 CD は海外の作品、普通 CD も日本民謡集からクラシック音楽へと広げていくつもりです。
こうした「聴く」楽しみだけでなく、「書く」楽しみもこの1年随分ありました。
まず第一に、シニア世代のための文化団体、従心会が「自由に何でもいいから書かないか」と誘ってくれたのに応じて、3月から 11 月までに計 12 回「風狂盲人日記」と題する連載エッセイを書き綴り、会のホームページに掲載してくれています(https://jushinkai.com/blog/)。
1回の分量は 2000 字平均で、自分の色んな体験を楽しんで書いていて、それが会員の人たちの間でも好評ということで、私としても気を良くして暫く続けていこうと思っています。
また、学会や教育団体の役職は殆ど外れましたが、Zoom での研究会や会議には相変わらず出席して人の話を聞きながら自由に発言することを続けています。それが毎月1、2回は必ずあるのも生活の励みになっています。更に、グローバル人材育成教育学会の会長を退いたのを機に、学会誌の論壇に私の評論を纏めて 5000 字以上書き送り、学会の支部大会でも Zoom で挨拶を頼まれたり、シンポジウムに登場して話をするなどの機会を与えてもらって楽しんでいます。また国際交流団体 IAC(国際芸術家センター)からの依頼で、この秋 Zoom による連続講演を3回実施しました。日本と世界との関係を考えるシリーズの初めての試みということで、①20 世紀に求められた国際人と 21 世紀に求められるグローバル人材の違い②鴎外、漱石、永井荷風の3人に見る留学の意味と意義③日本人と外国人の日本に対する大きな認識ギャップ―― の 3 点について、各回 45 分講演し、30 分参加者との質疑応答をするということで、これも毎回参加した 40 数人の人達からは大変好評ということで、新年にも更に別のテーマで連続講演をして欲しいと頼まれ、基本的に引き受けることにした次第です。

 2年前失明した当時は絶望的な気持ちで落ち込みもしましたが、回復しようのないものは運命と諦め、そのまま受け止めるしかないと覚悟を決め、その上で、では耳で何ができるかということを考え、この1年いろいろ模索してきた訳ですが、その結果として、予想以上に色んなことができるのだということが分かり、改めて自信を回復してきた感じがしています。
但しこうしたことは全て私一人ではできるものではなく、受け取ったメールを教えてくれるのも、またその返事を口述筆記で書き送ってくれるのも家内であり、この回顧文もそうですが、評論・エッセイ類などの文章も全て、iPhone に私が吹き込んだものを家内が空いている時間に起こして事実関係や、特に数字の間違いなどを訂正しながら直してくれ、それを聞き直して必要な文章の訂正をしながら完成原稿を送るということをやっています。その意味で、私の全ての社会的活動は家内の助けが無くては全くできないものであり、昨年の回顧文に引き続き、家内に感謝、感謝の気持ちを記しておくところです。

 最後になりますが、我が家の大きなニュースとして老猫モモが 11 月末に亡くなりました。22 歳7ヶ月、人間の年齢にすれば 106 歳ということで、かかりつけのペットクリニックでも「よく元気に長生きしている」と感心していました。それが家内の膝の上で寝たまま静かに息を引き取ったもので、苦しんだ様子もなく「大往生」と言えるでしょう。翌日に家内が近くのペット葬儀所に連れて行き火葬を済ませ、小さな骨壺に入って戻ってきました。長い間家族として親しみ、家内にベッタリと付き、家内が居ない時には私の足許にまつわりついて、膝に乗せるとそのまま大人しくひたすら静かに寝ていました。
居なくなってみると「ペットロス」で色んな場面を思い出して胸が痛むこともありますが、今はよく長生きしてくれた、と感謝しているところです。

 こうした事情ですが、体調は相当元気で、電話の応対も無理なくできます。どうか皆さま、いつでも結構ですから気が向いた時にメールなり、特にお電話を頂ければ幸いです。原則午前 9 時から夜 9 時ぐらいの間でしたら大丈夫です。
コロナ禍もまだしつこく続いていますが、どうぞ皆さまお互いに気を付けて楽しく年を越し、新年も明るく元気に過ごすように心がけましょう。私も来年末の回顧文では更にまた「進化」した話が書けるよう努めていきたいとおもっています。

〔勝又 美智雄先生の連絡先〕
   携帯電話:090-4595-8867
   メール:katsumatamichio@gmail.com