千葉哲雄さんのハノイ便り(第2回 現場)

千葉哲夫
9月中旬に今年2回目の稲刈りを終え、季節も長い雨期が終わり、10月から乾期、若干暑さも和らぎ、凌ぎやすいい季節を迎えました。これから来年2月の旧正月までが現場では正念場です。
以前にお知らせしましたが、自分の担当は電気工事を除く道路、上水道、下水道です。今回の便りでは、あまり聞きたくはないでしょうが現場での苦労話を少し織り交ぜて現況を紹介したいと思います。
■道路工事;
ビンフック県とハノイ市を結ぶ15キロのバイパス道路です。着工から既に2年半が経過、当初工期の2年は今年3月末で既に過ぎているのに進捗は未だに35%です。
請負業者の韓国POSCO E&C(有名なポスコ製鉄所の関連会社)にも大きな問題がありますが、遅延の主因は用地問題です。未だに10%程度の用地が引き渡されていません。道路工事はいわゆる長物工事です。それだけ地域住民との接点も多く技術的な問題以外の解決に多くの時間を割かねばなりません。
米や花の収穫期には工区に隣接する農作業を優先させたり、道路を横切る灌漑(用水路)は農民の生命線だけにいろいろな要求がありなかなか設計が決まりません。
こんなこともありました。
POSCOが下請け1社との下請け契約を解約したところ、この下請けは地元のヤクザを雇い妨害、この下請けが担当していた約4キロの工区が半年間中断してしまいました。この下請けは政府のある高官の紹介だったとのこと・・・。
発注先からの要請でやむなく使った業者が問題を起こすのは、東南アジアを初め発展途上国のインフラ工事によくみられることです。自分も嘗て初めて任された香港での工事で同じように1か月工事を中断した苦い経験が蘇ります。若い頃はこういう問題にも立ち向かう気力もありましたが、今はありません。
写真1
土木工事完成の過程では多かれ少なかれこうした社会に認知されない問題が隠されているものです。
上の写真は用地問題が比較的早くに解決した工区です。来月舗装工事が始まります。
全線15キロが早くこの状態になると良いのですが。
■上水道工事
入札から業者の決定までに2年を要し、今年4月やっと工事が始まりました。
韓国業者とSWING(旧名荏原)のJVです。ポンプや配管を担当するSWINGは全く心配ないのですが、土木工事を担当する韓国業者が心配です。地元ベトナムの大手建設会社に丸投げです。その結果提出される施工計画等の書類が稚拙でその審査に多くの時間が費やされます。更に問題は着工後6か月経ちますが、前渡金が未だに支払われず、業者は資金繰りに窮しています。資金はJICAの円借款で何ら問題ないのですが、支払いまでの過程が煩雑です。
契約先の担当部署から人民委員会、(日本の県庁)更に大蔵省の承認を得て支払われるのですが、今回は当該工事の契約書類に問題ありと言うことで、首相府の決済を仰ぐとのこと。社会主義の悪い面が露呈しています。担当部署では結論が出ません。
会議でもそうです。参加者ほぼ全員の意見を聞きます。反対意見があるとなかなか結論がでません。しかも会議はベトナム語なので、業者、コンサル・客先用に最低二人の通訳がつきます。通訳が入るのでただでさえ長い会議なのに、結論が出ない、その空しさ理解いただけるでしょうか?
資金が手当て出来ず輸入材の管が購入できません。配管工事は67,000mもあります。
配管工事が工期内に完了するか今から気をもんでいます。
因みに管は中国からの輸入です。ベトナム人は中国が大嫌いです。しかし経済分野では密接につながっています。
写真2
上の写真は河川に隣接する取水口の工事です。
乾期の内に完成しなければならない難しい工事の一つです。
■下水道工事
2年の工期を1年延長しやっと試運転を開始しました。
施工業者は地元ベトナムの大手建設会社です。先日人民委員会の検査があり、「品質が悪い」「コンサルの施工管理も悪い」とお叱りを受けました。自分の担当で責任を感じでしまいます。ベトナムの建設会社は、概して安全、品質、工程管理の意識が希薄です。
日本の建設会社での経験を伝えることも自分の役割の大切なところです。現場の責任者には伝わっても、なかなか成果につながらない難しさがあります。大きな課題の一つです。
3写真
試運転が開始されましたが、問題山積です。ベトナム側で施工すべき家庭からの枝管がまだ接続されておらず、流入する汚水が‘濃く’ないのです。処理場では汚水を綺麗な水とスラッジ(汚泥)に分離するのですが、汚泥が発生せず汚泥関連システムの試運転ができません。
当地ハノイに着任して16か月が過ぎました。
大勢のローカルスタッフに支えられてここまでやってこられました。
その支援に応えなければなりません。日本の会社で教示されたこと、体験してきた事を、残された1年の任期でどれだけこちらの人達に伝えられるか、楽しみでもあり、心配でもあります。
2年後、全ての工事が完了し、外国の企業を誘致し、この設備が生かされれば、このプロジェクトにかかわった一人としてこのうえない喜びです。